1.相続の始まりと基礎用語
相続が開始した後は、行うべき手続がいくつも発生するため、どこから進めればよいか迷う方も少なくありません。
⑴相続開始と登場人物の整理
相続は、被相続人が亡くなった時点で開始します(民法第882条)。
相続人とは、被相続人の財産に属していた権利義務を引き継ぐ立場の人です(民法第896条)。
ここでいう権利義務には、被相続人名義の預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産(負債)も含まれてきます。
相続は、誰が(相続人が誰か)、何を引き継ぐ可能性があるか(相続財産と負債)を確かめるところから始まります。
【用語の整理】相続でよく出る言葉の意味
| 被相続人 |
亡くなった方 |
| 相続人 |
法律上、相続する立場になる人 |
| 相続財産 |
相続開始時に被相続人の財産に属していた権利義務のうち、相続人に引き継がれるもの。 プラス財産だけでなく、借金などの負債も並べて整理します。
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| 遺言書 |
誰に何を残すかを定める書面。 遺言書があるかどうかで相続手続きの進め方が変わります。
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| 遺産分割 |
相続人が複数いるときに、相続財産の分け方を決めること。 |
⑵相続初動で確認するべき3点:遺言書・相続人・相続財産
相続の初動で迷ったときは、①遺言書、②相続人、③相続財産の3点を先に確認すると整理が進みます。
①遺言書があるかどうかで、分け方の出発点と必要書類の揃え方が変わります。
また、②相続人が誰かによって、誰の同意が必要か、誰に連絡を取るべきかの範囲が決まります。
さらに、③相続財産と負債の全体像が見えると、起源のある判断(相続放棄や限定承認など)の検討が可能となります。
【初動の3点】遺言書・相続人・相続財産の確認順
- 遺言書の確認:遺言書の有無や、遺言書の保管場所の手がかりを確認する
- 相続人の確定:戸籍謄本などの資料で相続人を確定し、関係者を漏れなく把握する
- 相続財産の把握:預貯金や不動産だけでなく、借金も含めて、相続財産を洗い出す
⑶相続手続の全体像
前項で説明した通り、相続手続は、①遺言書の確認、②相続人の確定、③相続財産の把握という前提づくりを先に行う必要があります。
これらの前提が固まったら、その上で相続をどう扱うかを検討していくこととなり、必要に応じて相続人間で遺産分割の話し合いを行い、不動産などの相続財産の名義変更などの手続きを行なっていくこととなります。
なお、相続人が複数いるときは、相続財産は遺産分割が終わるまでの間は相続人全員の共有に属するとの扱いとなるため、何よりまずは相続人を確定させる必要があります(民法第898条)。
2.相続人の決まり方と分岐点

相続人が誰であるのかを見誤ると、積み重ねてきた検討などが一旦やり直しとなってしまう可能性があります。
再婚や養子縁組など思い当たる事情があるときは、先に相続人の範囲を戸籍で確かめてから動く方が安全です。
⑴相続人確定の基本手順
相続人が誰であるのかを明確にすることは、遺産分割の話し合いや相続財産の名義変更の前提になる重要な作業です。
たとえ既に相続の手続きが進行していたとしても、相続人の一部が漏れていた場合は、後から手続きを一からやり直さなければならくなってしまう可能性もあります。
相続人の範囲は記憶や感覚で決め打ちせず、戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)などの正式な書類で事実を確定させるのが基本です。
まずは配偶者や子など思い浮かぶ関係者をメモに書き出し、その後、戸籍謄本などの正確な情報が記載された書類で裏取りして整理していくことが良いでしょう。
⑵法定相続人の範囲と切り替わり
民法は法定相続人の種類と範囲を画一的に定めており、法定相続人を関係する当事者間で勝手に決めることはできません。
具体的には、配偶者は常に法定相続人となります。
また、配偶者以外は、❶被相続人の子→❷直系尊属(被相続人の親など)→❸被相続人の兄弟姉妹の順に、存在するかどうかで法定相続人が切り替わります。
実際の相続事件では、戸籍や関係資料をもとに、誰が相続人になるかを一つずつ吟味して確定します。
なお、法定相続人以外の人にも財産を残したいときは、遺言を残す必要があります。
【分岐の早見】法定相続人が切り替わる基本パターン
相続の際には、法定相続人になりそうな人の中で、誰が生存しているかを先に整理しましょう。
⑶相続人で迷いやすい家族関係の例
相続人の範囲は「戸籍上の身分関係」で決まるため、普段の呼び方や同居の有無で判断すると相続人の範囲を誤解したままで相続手続きを進めてしまうおそれがあります。
特に、再婚や前婚の子がいる場合は、誰が被相続人の子として戸籍に記載されているかで相続人が変わります。
連れ子は、養子縁組などにより戸籍上の親子関係があるかどうかで結論が分かれるため、先に戸籍関係を確認して確定させる必要があります。
また、子が被相続人より先に亡くなっている場合は、子の子(被相続人の孫)が相続人となる(代襲相続)可能性があります。
【相続人で迷いやすい場面の見分け方】
- 再婚や前婚の子がいるとき
→婚姻歴と子の有無を戸籍で確認
- 連れ子がいるとき
→養子縁組の有無を戸籍で確認
- 孫が関係しそうなとき
→子の生死と死亡の順序を時系列で整理
3.相続財産の範囲と棚卸し
⑴相続財産の基本ルール
相続財産は、相続開始時に被相続人に属していた権利義務で、相続人に引き継がれるものです。
相続財産の枠組みでは、預貯金や不動産などのプラスの財産(積極財産)だけでなく、借金などのマイナスの財産(消極財産)も相続の対象になります。
相続放棄など期限のある判断をするためには、借金の有無を含めた全体像を、手がかりでもよいので把握しておく必要があります。
また、一見して被相続人のプラスの財産であり、相続財産に含まそうであるものの、含まれないものもありますので注意です。
⑵相続財産に含まれるものの例
相続財産に含まれる代表的なものは以下のとおりです。
- 現金
- 預貯金
- 株式などの有価証券
- 不動産の所有権や共有持分権
- 動産(不動産以外の物。家具家電、家財、衣類、宝飾品など)
- 金銭債権
- 損害賠償請求権(原則)
- 著作権
- 借金
特に金銭債権(貸付金の返還を求める権利など)は、書類が残っていないと見落とされやすい財産ですので注意が必要です。
相続財産の範囲を調査する際には、被相続人名義の通帳、郵便物、契約書類、支払いや入金の履歴などの手がかりを一つずつ集めて検討していく必要があります。
⑶相続財産に含まれないものの例
相続財産に含まれない代表的なものとして、祭祀財産や一身専属的な権利義務があります。
- 祭祀財産(お墓・仏壇・位牌など)
- 本人にのみ帰属する性質の権利(一身専属権。例えば生活保護受給権など)
- 受取人が指定された生命保険の死亡保険金
- 遺族年金や遺族給付金の給付の受給権など
このほかにも、遺産から生じた果実や収益(受取賃料など)は、相続財産そのものとは別に扱われることがあります。
なお、死亡保険金や死亡退職金などは、相続財産には含まれませんが、税務上はみなし相続財産として相続税の課税対象に含まれることがあります(その意味で、税法上の相続財産と民法上の相続財産の範囲が一致しないこともあります)。
【よくある誤解】相続財産とみなし相続財産の違い
- 相続財産
…相続人が引き継ぐ権利義務
- みなし相続財産
…死亡保険金や死亡退職金などを相続税の課税対象に含める税務上の考え方
【分類の目安】相続財産の棚卸しで見るポイント
- 相続財産に含まれる例は、現金、預貯金、不動産、有価証券、動産、金銭債権、借金などです。
- 相続財産に含まれない例は、祭祀財産や一身専属的な権利義務、受取人が指定された生命保険の死亡保険金などです。
- 迷うときは、名義、契約の当事者、受取人の指定、支払根拠となる書類を確認します。
- 死亡保険金や死亡退職金などは税務上みなし相続財産として扱われる場合があるため、民法上の分類と切り分けて整理します。
4.相続手続の流れと期限

相続が開始すると、金融機関、役所、不動産、税務など、窓口ごとにいくつもの手続が並行して進むこととなります。
⑴相続手続の流れ
相続手続は、基本的に以下のような流れで進みます。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人を確定する
- 相続財産を把握する
- 相続財産の分け方を決める
- 名義変更を進めていく
⑵期限がある判断
相続の初動で期限が問題になりやすいのは、単純承認、限定承認、相続放棄のいずれにするかを検討する場面です。
相続放棄と限定承認を行うためには、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
相続財産や借金の全体像がすぐに見えないときでも、期限は進みます。
判断が間に合わない可能性があるときは、家庭裁判所に熟慮期間の伸長の申立てができる場合もあるため、判断が難しい場合は、早めに専門家に相談することがよいでしょう。
また、相続税の申告などは、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。
⑶戸籍や不動産登記簿の収集
相続人の範囲を確定するために、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本を収集して、確認することが必要となります。
また、相続財産の中に不動産がある場合は、登記簿を確認した上で、誰が引き継ぐか、売却して分けるかを検討する必要があります。
【手続きマップ】相続の流れと期限の位置関係
①遺言書の有無を確認する
↓
②戸籍で相続人を確定する
↓
③相続財産と負債を洗い出す
┗自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内の期限を意識して、単純承認、限定承認、相続放棄を検討する
↓
④必要に応じて遺産分割協議をする
↓
⑤名義変更や解約などの実行手続をする
┗相続の開始を知った日の翌日から10か月以内の期限を意識して、相続税の申告の要否を判断し、必要なら準備する
5.専門家(司法書士・税理士・弁護士)への相談
相続問題に関与する専門家としては、司法書士・税理士・弁護士がいます。
司法書士は相続登記など登記に関する手続を中心に、税理士は相続税申告の要否判断や申告実務を中心に、弁護士は遺産分割の対立や相続人間の調整が必要な場面を中心に対応します。
専門家に相談する前にすべての資料を完璧に揃える必要はありませんが、以下の点については事前に整理しておくとスムーズに進めることができます。
【相談前チェック】専門家に相談する際に整理しておきたい情報
- 被相続人の氏名と死亡日
- 相続の開始を知った日
- 遺言書の有無と保管場所の手がかり
- 家族関係と相続人候補
- 預貯金や不動産など主な財産の手がかり
- 借金の疑いがないか、請求書や契約書類など
- これまでに行なった手続と、いま困っている点
6.相続の前提確認と次の動き
相続は、遺言書の有無、相続人の確定、相続財産と負債の把握がそろって初めて、遺産分割や名義変更の土台が整います。
この土台が曖昧なままだと、手続だけが先行して必要書類や同意が足りず、途中で止まることがあります。
相続放棄や限定承認を考えるときは、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内の熟慮期間内に家庭裁判所に申述することができるよう、期限を正確に把握して動くことが必要です。
期限や相続人の範囲で迷いが残るときは、弁護士への法律相談で前提と期限の整理や考え方を整理することをお勧めします。
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